中田舎暮らし1
<廓〜くるわ〜って何?>
・・そんなん、しらん


”クルワの人達にジンギをする”

陶芸家がいくらやくざな商売でも、
ここまでの人生は小市民で生きてきました私にとって
あんまり使ったことのない言い回しでした。
ところがこれは、ここでは普通に使う言葉なんです。

隣組10〜20軒を、クルワと呼ぶのです。漢字では廓と書きます。
吉原の花魁が所属するあれと同じです。
私のざっくりした知識では、どうも、鎌倉の昔から、
半農半武士の足軽組の単位を廓といったらしく、
ここには、その名称が現代まで残ったようなのです。
遊郭をさしていう"くるわ"のほうがむしろそちらをまねたようですね。

実際の会話では、根岸の廓、とか、如意輪堂の廓、というように
前のほうに名前をつけて地域を示す固有名詞として使います。
この場合の名称は、地図には出ていません。
調べがつかないのに、町の年上の人達が使う地名はもっぱらこれです。
例えば、実際どこの誰であるかを、町内の人にきかれた場合の
”どこの人?”の”どこ”は、くるわの名称を指します。
最初の頃は困りました。

行政地区よりすこし入り組んでいて、
分家に当たる家などはちょっと位なら離れていても、本家のある廓に入ります。
場所に着いた番号優先の行政区に対して、
上に暮らす人間の所属優先なので、
行事はこの単位で行いますから
実際使うには、くるわのほうが都合がいいわけです。

また、廓名が名乗れない人は、即”よその人”カテゴリーに分類です。
警戒されて、話が終わってしまうので、
未だに、廓名と、場所が一致していない私も、
さもわかった風に会話することにしています。
(たまによその人のフリをすることもありますが)

また、ジンギっていうのもここに住んで初めてしりました。
もちろん、寅次郎さんが言うようなせりふはいいません。
土地やら、家やら、葬式の相談やらで
公式に相手方をたずねる事をジンギをするというようです。

我家で工房を立てる際も家の工事の時も、両隣にジンギをしました。
ちょっと話す程度場合はジンギするとは言いません。
東西の隣にはジンギをしても、水路をはさんだ北側は、
”別のくるわだで、かまうこたねぇ”なんてことになったりします。
そこら辺の境目はお年寄りに訊くと、教えてくれます。

ジンギをしに来た、と一言つけば、野良着でも普段着でも
公式な会談です。結構合理的な感じがしませんか。

どちらも使い慣れると、ここのシステムには不可欠な言葉なのだとわかります。
このごろでは、すっかり気に入って使わせてもらっているのですよ。




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