職人母見参1
<書き初め編>
産んだら捨てるな。


サインペンで、B4縦半裁の用紙に
”あいさつ”とかく、というのが
一年生の子供が持ち帰った書き初め。

こいつが結構くせ者でした。
いま、思うことは
ぁ〜、もっと不真面目に生きよう。
(そうしてくれと、家族も言っているきがする。)

私の頃、書き初めの宿題といえば一年に一度、
忍法帳の巻物のように手渡され、
正月2日、朝から緊迫気味のわが家で
父の指導の元、
正座して墨をすり、
新聞紙を縦に切った練習用紙をつくり、
持つところの曲線が妙に剽軽な特別ぶっとい筆で、
まず一文字ずつ、次に並べて
何度も直されつつ練習を繰り返した後、
清書用紙に書くことをやっと許され、
緊張しちゃってうまくゆかず、
うまくいっても名前を失敗、
紙がたりなくなってドキッ、
見越してた親が買っといてくれてホッ、
すったもんだのあげく書き上げるってしろもんでした。

サインペンで、同じ練習方法をとったところ、
問題続出。

まず大きさ。
運筆が難しい。
小さい手で、鉛筆のように持って書くには、
対象の字が大きすぎるし、
さりとて、お習字の筆のように持っても、
獲物がサインペンでは
筆の高さ調整や、回転による太さの変化がみえないので、
どうして、そう持つのか本人にピンとこない。
気を入れて打ち込んだりすると
すぐ穂先がつぶれてしまう。
細いので、ちょっとした腕のぶれが、線にでてしまい、
失敗感つよし、やる気盛り上がらず。
あげく手軽にかけるので、
敵さん、気を入れずに書き散らかして
枚数書いて努力をアピールする戦法にでた。
これが、職人母の逆鱗に触れちゃった。

”気を入れずに下手な字を何回書いたって、
上手くなるわけないでしょ!
そういうのを頑張ってるとはいわないっ!”
噴火するわ、泣くわ、
半鐘は鳴るわ、火消しは飛んでくるわで、
あたりはもう〜真昼のような大騒ぎ・・・
・・っていうか、もうホントに真昼近いよ〜
弁当もって学童行くんじゃなかったの?
一生懸命つくった弁当なんだぞ!
(もはや書き初めと関係ない件で怒っている)
(苦手の弁当づくりと、仕事に行けないのとで、
かなりの不機嫌ベースの所に噴火したので、
大量の八つ当たり爆弾も炸裂)

結局、”さ”を練習中に
インクが枯渇し、1日目は中断。
母には書写用サインペン太字を探して、
買い物に出る使命が残された。
ぁ〜ぁ、午後も仕事になんないよ〜

続く2日目。

今日は噴火しないぞ、反省する職人母。
母が優しいとみると、すぐに調子に乗る敵ですから、
少しおっかない顔で取りかかります。

思いついて、昨日枯渇したサインペンに、
インク壺から、墨汁をつけつつ
書かせてみたら、これが調子いい。
単に、もう一本買いに行くのが
いやだったという話もありますが・・
いい字が書けるから、がんばれるんです。
たぶんはじめから筆で書く方が、書きやすかったでしょうね。
長い時間をかけて、文化として成熟してきた毛筆という道具。
伝統の道具は偉いんだぞ!と、
筆族の端くれ絵付け人は一人うなずいたのでありました。

中途半端なサインペンでの書き初め。
一年生だから、との配慮でしょうが、
文科省さんは、”筆”という道具について、
ご理解が浅いように思われますな。

さて、子供。
べそをかきつつも、
何とか半日かけて、”さ、つ”を修得し、
書き上げましたよ。
来年、毛筆の課題になったら、
家族全員で、硯に向かうようにしたら
子供にも気分が伝わるかな、と
職人母は、思うのでした。
(やめてくれ〜と、家族の声が聞こえた気がするが、無視!)

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