職人母見参3
<マヤの一生>
もしくは ぼた餅
戦争する暇があったら昼寝をするよ、僕なら。

春分の日の夕食時、私が仕事場から戻ると
子供が号泣していた。
赤ん坊の頃から機嫌が割と安定している人で、
しかられた時でも、じっと泣く感じの子だから、
何があったかと驚いて夫に尋ねた。
果たして”マヤの一生”というアニメを見て
その結末に大泣きしていたのだった。

――マヤ、という名の犬が、太平洋戦争直前に生まれ、
飼い主家族にかわいがられながら成長する。
しかし、戦局の変化と共に生きることを許されなくなる。
あくまでマヤをかばおうとする、飼い主家族は、
隣組から”非国民”とののしられ苦しむ。
結局マヤは隣組の人々によって撲殺される。
殴られ、殴られ、死の直前で、マヤは逃走し
懐かしい家までたどり着いて家族の前でこときれる。
――以上、子供の説明によるあらすじ。

しがみつく子供を膝に乗せて、
胸に抱えて出た言葉は

いい子だ、いい子だ、泣きなよ、いっぱい。

戦争を知らない私たちは、
話を聞いたり読んだりで
こうして涙を流すけれど、
振り向けば家族はニコニコしてる。
犬のユンタは小屋に、ねてるし、
お隣は、お彼岸に作ったからと、ぼた餅をくれた。

この平穏の尊さを知るために
必要な涙ならば、どうぞ流してください。
あなたが泣くとそりゃ、私の胸もしくしくするけど。
こうしてずっと頭をなでているから。

手放しに泣いて、泣きやんだらさ、
一緒にぼた餅食べようよ。
今日の所は近所で戦争をしていないから、
あんこを口の周りにつけて
もう笑ってるあなたを眺めることが出来る。

戦争をしない明日は、
あちこち痛い思いをしても、
自分でなんとか守らなきゃ、な。

春の彼岸のお中日。
あの戦争で命を縮めた祖父母や叔母達が
泣く子をのぞきにちょっときて
一人ごちる私の横で
うん、うん、うなずいた気がした。
(2005.3.21)

 ・・・・職人母シリーズとして続きをかけるか?



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